『オレときいろ』ミロコマチコ
うっ! まぶしい黄色……これがずっーと続く
はじめは黄色いテントウムシ。
木で休んでいた青い猫が、ぷ〜と飛んでいるのを見つけて、追いかけて、跳んだり跳ねたり、捕まえようとする。
なかなか捕まえられない……夢中になっていると突然! 黄色が騒ぎ出す!
地面がぐらぐら揺れてモグラやミミズ、雑草がムクムク起きてくる、
あっとしていると今度は暴力みたいな風が吹いてもうめちゃくちゃ!
めちゃくちゃに疲れた猫がへたっていると、
うわ! 地面から黄色が吹き出してきた! 虫! 草! モグラ!
今度はなに?! 動物たちが疾走してくる! ライオン! ダチョウ! クマ!
猫、ふっとばされる!
うがーーーーーーーーーーッ!
ミロコマチコさんのダイナミックで迷いのない、エネルギッシュな生き物たちが
見開きいっぱいに『黄色』で描かれれた、目にも心にもまぶしい作品。
こんなに迫力のある絵本ははじめて。もはや絵の暴力。目が痛い。
見ていると活力が沸いてきて(蛍光イエローのまぶしさにどきどきするんです)、
よし、なんかやれそう!(なんとはなしに)と拳をにぎってしまう。
朝、起きがけにパラ見すると、目も冴えるし心拍数もあがるし、いいかもしれません。
明日からやってみよう。
GOSICK -ゴシック-
「かわいい女の子」であり、「名探偵」である構成材料。
GOSICK ─ゴシック─(ビーンズ文庫) (角川ビーンズ文庫)
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2012/10/01
- メディア: Kindle版
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『GOSICK』は「西欧舞台でかわいい女の子が活躍するライトノベルが読みたい!」
という私の気持ちにドンと応える。
『GOSICK』の「かわいい女の子」は表紙を見てもわかる通り、
金髪碧眼の少女・ヴィクトリカである。
悠然とパイプをふかしている姿から、彼女がただの幼女でないことが見て取れ、
あらすじからもヴィクトリカがこの小説における「探偵」であること、
そしてかなり頭脳明晰な変わり者であることもうかがえる。
しかし、とりわけこの設定が目新しいわけではない。
ミステリの探偵役はだいたいこんな性格な者が多い。
例を挙げると流行の『SHERLOCK』のシャーロック(原作もふくめ)も
まさにこんなキャラクターである。生き字引のように解説してみせるところもそっくりだ。
ヴィクトリカの推理力である「混沌の再構成」や「湧き出る知恵の泉」と、
シャーロックの「精神の宮殿」も似ている。「マインドパレス」という記憶術が実際にあるらしい。
往々にして探偵は、鋭い観察眼と膨大な知識を持った「天才」が多い。
著者の編み上げたトリックを解説しなくちゃならないわけだから、そうなるのは当然のことだ。
「探偵」の記号にぴったりハマるヴィクトリカだが、
このままでは外見だけの「かわいい女の子」になってしまう。
マンガやアニメならそれでも通じるかもしれないが、小説はビジュアライズに弱い。
しかもヴィクトリカの口調は堅苦しく、女の子らしい言葉づかいではない。
その上「老婆のような声」ときた。小説の音声化が苦手な私には上手く脳内再生できなかったが。
ヴィクトリカのかわいさを引き出しているのは「設定」ではなく、「助手」の一弥だ。
この少年がいなければヴィクトリカに事件はもたらされないし、
彼女のキャラクターを把握することもできない。
読者は一弥の視点でヴィクトリカと接することになる。
一弥は推理場面においてヴィクトリカには遠く及ばない。
しかし日常風景では一弥がヴィクトリカをおんぶに抱っこで世話している。
ここで「超人的で傲慢な探偵」と「だらしなくて常識にかけた少女」という
2つのヴィクトリカを見ることができる。つまりギャップである。
このギャップが肝心なのである。
読んでいるこっちまで一弥といっしょに
「もう、ヴィクトリカったら!」みたいな心境にさせ、
彼女に振り回される一弥に同情できる「庶民臭さ」が重要なのである。
特異なヴィクトリカを一般人の一弥の目から描くことで、
「かわいい女の子」+「名探偵」=ヴィクトリカが実現するのである。
彼らのやり取りは微笑ましく軽快で、「人の魅力」を引き出すのは「他者との関わり合い」であることを改めて感じさせられた作品だ。
もうひとつ、『GOSICK』の魅力について書き留める。
女の子であるヴィクトリカは男性的に、
男の子である一弥は女性的に描かれていることだ。
ヒロイン性からヴィクトリカを引き離すことで、
なよなよした女の子臭さを排除し、
女性読者にも「かわいい女の子」と受け入れやすくさせている。
「かわいい」「かっこいい」などは外的要素であり、
内面から描くのは極めて危険である。
暗い宿
息抜きにおすすめ! 中年コンビと殺人事件旅行プラン
人が死ぬ話は魅力的だ、繰り返しの日常から脱出させてくれる。
とりわけ、鼻を噛んだティッシュのように使い捨てられる殺人事件は気楽でいい。
犯行現場のスリル感や、謎が解かれたときの爽快感は、気分転換に旅行するのと同じ効果を持っている。
著者のペンネームと同姓同名の語り手・有栖川有栖は、職業もまた同じ推理小説家だ。
現実の有栖川有栖と違うのは、小説の取材や慰安旅行に行った先で本当の殺人事件に見舞われるところだ。
まさに推理小説家が天命のような男である。
彼は職業柄、凄惨な事件でも小説のネタに結びつけてしまうし、
推理よりも鉄道の路線関係だとか、観光先の郷土や名品に思考を割く。
ミステリのトリックを作るように事件を解こうとするので、
選択肢は広まってもなかなか真相に辿り着けない。
彼が当てずっぽうに喋っていく推理を選り分けて、
「ふん、それまた飛躍した推理だな」と謎解きをするのは犯罪臨床学者・火村英夫だ。
彼は大学で犯罪社会学を教える傍ら、フィールドワークと称して警察に介入し、難事件を解決する影の立役者である。
推理小説家と犯罪学者の中年男コンビが、
血なまぐさい殺人事件を前にして冗談を言い合いながら推理していく。
そのようすは穏やかで、ほっと笑えるやりとりである。
しかし、彼らを描くのは日本の本格推理小説を支える、
現実の有栖川有栖だ――収録されている『宿』をテーマにした短編小説は、
それぞれ異なる演出とトリックが光っており、読者を飽きさせることがない。
有栖川の泊まった民宿で人骨が発見される「暗い宿」
バカンス先で訳ありげな夫婦と出会う「ホテル・ラフレシア」
温泉旅館で不審な包帯男と遭遇する「異形の客」
来日していた有名ロック歌手が殺人容疑者になる「201号室の災厄」
気になるタイトルはあっただろうか。
どの宿も、あなたを極上のミステリでもてなしてくれることだろう。